古来日本人は、すべての営みは自然の摂理の中にあり、
八百万神(やおよろずのかみ)に禱(いのり)を捧げ、稔(みのり)を授かると考えてきました。
禱を込めて祭事を行い、田や酒蔵に神を招き、米や酒という稔の糧を受け取る
-稲作と醸造も、その普遍的な自然観の真っ只中に在るということは、根源的な幸福です。
自然への畏敬、健やかな命の歓びを宿した有機米は、やがて有機認証を受けた壽蔵で有機純米酒という新しい命を授かり、
「禱と稔」という賜物になりました。
有機米の契約栽培地は兵庫県と長野県にあります。その土地の気候風土でしか生育し得ない特質をもったそれらの米は、金沢の地で酒に生まれ変わります。霊峰・白山の麓に降り注いだ雨雪が地中近くに浸み入り、百年の時をかけてミネラルを豊富に溶け込ませながら酒蔵の直下150mに辿り着く仕込み水。 金沢特有の気候で伸び伸びと育つ麹と酵母たち。土と水と微生物、そして気候風土との融合は、目に見えぬ力に導かれた恵みの巡り合わせです。
「農産物の生産に携わる者であれば、誰しもが健全なものを作りたいと思うのが本心である」と、ある農夫はいいました。土を育み、日照と気温に従い、田に這って草と戦い、黄金色の稲田を眺めるときの誇りと歓び。純米蔵の杜氏もまた、酒造りの主役である麹と酵母の変化を五感で感じ取り、微生物最優先の酒造りに確信と愛情をもっています。 米作り、酒造りのあるべき姿を見つめ、理想を求めた職人たちの気概と技の結晶がここにあります。
自然の摂理に謙虚に従いながら技を高める、創作という営みは尊く崇高です。純粋な情熱による創意工夫、健全な心は、素の形を生み出します。精一杯の思いを込めて作られた有機米、全霊を傾けてその米を醸して仕上げる純米酒。 さらに、その酒が授かる「禱と稔」という銘、そこに添えられた意匠もまたすべて、自然の摂理の一端であり、その環から自ずと生まれて一つに帰結した必然の形なのです。
兵庫県多可郡多可町中区坂本
酒米の最高峰である山田錦の有機栽培一筋に生きる農家は、「雑草と病気、害虫との戦いを創意工夫と体力で乗り切った」と語ります。
この地の生産者の熱意と福光屋の品質の思いが一致して契約栽培を始めたのは1960年のこと。意欲に満ちた生産者たちは粘土質の圃場に情熱を注ぎ、優れた米作りの技によって有機栽培を実現しました。
長野県下高井郡木島平村
国内有数の豪雪地帯である木島平村は、「幻の酒米」金紋錦の数少ない栽培地です。栽培難度の高さから一時は衰減の危機にありながら生産者との信頼関係、切磋琢磨によって、1988年にこの地で福光屋独自の酒米として蘇った歴史を持ちます。
恵みの雪によるミネラルと山間地特有の寒暖差は有機米に滋養を授け、独特の旨味を生みます。
兵庫県豊岡市出石町
国内唯一の栽培地・出石町は、清らかな水辺にしか生息しない国の特別天然記念物・コウノトリが飛来する自然豊かな里山です。
1988年当時、この地のフクノハナの全量を福光屋が受け入れ、生産者とともにより自然な栽培を模索する中で特有の環境共生型農業を構築。特別栽培・有機栽培米は、全国の酒蔵で福光屋のみが使用しています。